大阪と京都にあるカウンセリング機関(臨床心理士)/女性ライフサイクル研究所フェリアン。講演・研修、研究・執筆活動なども行っています。

●虐待が起きる背景

テレビや新聞で、虐待のニュースを見ない日はないというほど、子どもへの虐待が後を絶ちません。国や地域でも、虐待防止の取組みが進んできてはいますが、その数は減るどころか、年々増加していっています。
虐待が起こる要因には様々なものがありますが、主に①保護者側の要因(望まない妊娠、育児不安、衝動的な性格、心身の不調など)、子ども側の要因(手がかかる、未熟児、障害児など、育てにくさがあるなど)、養育環境の要因(複雑で不安定な家庭環境、夫婦の不和、経済的困窮、社会的孤立など)の3つが挙げられます。
もちろんそれらの要因があると必ず虐待が起きるわけではありませんが、そうした要因がない人より、虐待のリスクは高くなり、いくつもの要因が重なる場合は、いっそう深刻な心理状態になりやすいと考えられます。

「虐待」と聞いてイメージされるのは、未熟な親が、子どもを殴ったり蹴ったり、食事を与えなかったりする図ではありませんか?
虐待している親に対しては、どうしても否定的なイメージを持ちがちで、「あんな親を持って、子どもが可愛そうだ」とか「どうして、もっと子どもに優しく関われないんだろう」と非難したくなることもあるでしょう。

しかし、そう思っている限り、「子どもを満足に育てることもできないひどい親だ」ということで終わってしまいます。そもそも、虐待を親だけの責任にし、個人の問題にするのは、間違いです。
そうではなくて、子育てが母親にばかり集中しやすいという状況や子育てをサポートする資源が不十分であるなど、社会の問題であり、いろいろな人が自分の問題として取り組んでいかなければ、減らすことはできないのではないかと思います。

現在の子育ては、密室化していて、「いい子に育てなければ」というプレッシャーがとても強くなっていると言われています。親は、つい周りと比較して、「うちの子は遅れているのでは?」と思いがちですし、他の子どもに負けないように頑張らせることが、自分の評価であるかのように思わされてしまいます。
それでも子育ては、自分の思うとおりにはいかず、どんなに頑張っていても、なかなか結果も出ないし、ほめられることもありません。それで追いつめられ、正常な判断力が失われ、子どもに当たってしまうということもあるのではないでしょうか?
そうならなないためには、子育てを一人で抱えてしまっている親の気持ちを受け止め、外とつながりを持てるようにすること。また周りが親のしんどさに気づき手を差し伸べていくことが必要です。

虐待をしている親は、自分では「しつけ」の一環として暴力をふるうタイプや、いけないとわかっているけれどキレてしまうタイプ、暴力になじみがある育ちをしてきて、口より先に手が出るというタイプがあり、簡単には止められないというのが現状です。
また親自身も様々な大変さを抱えており、傷ついていることが少なくありません。例えば、離婚後に女手一つで子育てをしてきた母親であったり、DVの被害を受けていたり、病気を患っていたり、周りから孤立していたり、いろんな背景を持っています。虐待を受けて育ってきた場合、子どもへの適切な接し方がわからず、親と同じように暴力をふるってしまう世代間連鎖の問題もあります。

虐待してしまう親のことを、困った人と捉えるのではなく、非常に困っている人。困っていることをうまく表現できずに、間違った行動を取ってしまう人と捉えると、少し理解ができるのではないかと思います。

●虐待してしまう親への関わり方

私たちは、虐待してしまう親が、自分の怒りに気づき、その対処方法を身につけることができる「怒りのコントロールを学ぶグループ」というのを地域で長年おこなっています。
虐待している親の行動を変えるのは難しいと言われているのですが、全8回のプログラムを受講すると、最初は、子どもにイライラして叩いたり怒鳴ったりしていた親であっても、それは良くないんだと徐々に気づいていき、暴力を使わずに、子どもに伝えられるようになります。

◆プログラムのご紹介
1回目 オリエンテーション
グループの目的や性質、参加のルールなどについて説明します。そのあと、親がコントロールされない怒りを子どもにぶつけることでおこる否定的影響について学び、このグループを通じて達成したい目標の確認をおこないます。
2回目 怒りの行動を変える決意をしましょう
怒りは、自分自身のものであり、自分の怒りに責任をもつことが大切であることを学びます。そのうえで、怒りの行動によるデメリットについて、また怒りの行動を変えるメリットや長期的影響について考え、怒りのコントロールへの動機づけを高めます。
3回目 子どもへのしつけ、叱り方を学びましょう
怒りをコントロールしても、子どもにどう叱ればいいいかわからないという親のために、しつけの意味、叱り方の基本やコツについて、わかりやすく説明します。
4回目 怒りを引き起こす状況を変えましょう
参加者に事前に怒りの日記をつけてきてもらい、どういう場面でよく怒っているかを分析してもらいます。そして、その状況をうまく変化させることで、怒りを回避できないか、参加者全員でアイデアを出し合います。
5回目 怒りの感情と行動に対処しましょう
怒りといっても、ちょっとしたイライラから、ムカムカ、激怒まで、怒りの感情の大きさに違いがあることに気づいていただきます。小さな怒りのときに気づき、こまめに対処することで、怒りはコントロールできることを学び、具体的な対処法のリストを作ります。
6回目 怒りを強める思考に対処しましょう
怒りには、「こうあるべき」「こうしなければいけない」といった親自身の考え方の癖(自動思考)が影響していることがよくあります。そこで、この回では、怒りを強めている思考に気づき、怒りを弱める別の思考へ置き換える練習をします。
7回目 怒りに先行する状態に対処しましょう
子どもに同じことをされても、ひどく腹の立つときと軽く流せるときがあります。それは、親自身の体調やストレスなど、怒りの先行状態が関係していることを学びます。心身をリラックスさせる方法の一つとして、動作法によるリラクセーションを体験します。
8回目 怒りのあと、まとめ
この回では、怒りの先行状態への対処について、みんなでアイデアを出し合います。また、怒りすぎてしまったときどうすれば子どもへの否定的影響を減らすことができるのかを学びます。最後に全体をふりかえって、最初の目標がどれぐらい達成でき、その状態を維持するには何が必要かを考えます。

このグループでは、みんな同じような悩みを持った人が参加するので、「私だけじゃないんだ」という安心感が持てます。多くの人が、怒りをコントロールするためのいろいろな方法を試すうちに、怒りの感情を客観的に見れるようになり、子どもの言動に腹が立っても、冷静に対処できるようになっていきます。

私たちは、援助者がこのプログラムを実施できるようにグループの進行の仕方を学ぶ研修を、毎年おこなっています。日本全国から、児童相談所や保健所や学校の先生など、虐待に関わっている支援者の方が受けに来られます。研修で学んだことをそれぞれの現場に持ち帰り、怒りのコントロールのグループを実施したり、虐待してしまう保護者への対応に活かされていて、「わかりやすく、すぐに実践できるのが良い」という声をたくさんいただいています。
今年は、10月31日、11月1日に、「虐待防止のためのグループ援助を学ぶ研修PAM (Peaceful Anger Management)グループ 実践者養成講座」をフェリアン大阪で開催します。
関心のある方は、ぜひご参加ください。            (2015年8月)

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