エッセイ
ふとした瞬間に思うことを、つれづれなるままに/前村よう子
「まぁ皆さん、聴いて下さい」のセリフで始まり、延々愚痴を言う(ぼやく)男性に、相方の女性が「うるさい」と一括する夫婦漫才、人生幸朗・生恵幸子さんとその芸を覚えておられる方は、どれほどだろうか。おそらく、そう多くはないだろう。40代前半がギリギリというところだろうか。
私は、このぼやき漫才が好きだった。ぼやく題材にも「あるある」とうなずくことが少なくなかったし、たまに胸のすくようなぼやきもあった。
今回のエッセイでは、私がふとした瞬間に「?」と感じたことを、つれづれなるままに3点、ぼやきたいと思う。
(その1)
雨の日にいつもぼやきたくなる。「あなたの後ろには、敵がいるのですか」と。あなたとは、長い傘を思い切り後ろ側に突き出して歩いている方のことだ。無意識に傘を持って、元気よく腕を振って歩いておられるだけだろうけれど、後ろを歩いている身にとっては非常に危険な行為だと思う。階段の上り下りの際に、目やお腹を突かれそうになったこともある。傘は縦向きに持って振らずに歩いて頂きたいものだ。
(その2)
歩きタバコをしている方にぼやきたくなる。「あなたが手にしているもの、それって小さな松明ですよ」と。かなり昔のテレビCMでも、同様の映像が流れていた。小さな子どもたちにとっては、歩きながら手にしているタバコの火がどんなに危険なものかが伝わるようなCMだった。今はマナーの良い喫煙者も増えたけれど、どこにでも、誰にでも引火する火の元を手にしているという事実を忘れずにとお願いしたい。
(その3)
歩きスマホをしている方へのぼやき。「どこか通行の邪魔にならない場所で、どうぞスマホを思う存分、操作してください」と。刺されそうな傘より、歩きタバコより、圧倒的に多いのがこの歩きスマホ。場所や時間によっては、スマホを操作することなく普通に歩いている人を探す方が難しい場合もある。
周りにも迷惑なのはもちろん、歩きスマホをしている人自身もかなり危険にさらされているのに、多くの人がそれに無自覚だ。
段差に気付かずつまずいたり、誰かにぶつかったりで済めばいいが、階段を踏み外したり、車にひかれたりといった被害、誰かにぶつかることで相手に怪我を負わせるという加害など、いろんな危険を伴う行為である。
私がここでぼやく以前から、新聞・雑誌、ネットなどを通してその危険性は広く知られているものの、歩きスマホ人口は増える一方な気がしている。
今、人生幸朗・生恵幸子さんがもしご健在で、お二人の漫才を聴くことができたなら、きっと歩きスマホは一番のネタになっていただろうな、そんなことを思いつつ、これからも真っ当なぼやきは忘れずにいたいと思う。 (2014年8月)