エッセイ
花がくれる私に還る時間/北原絵梨
花を生けるひと時には、
冷えた水、しなやかな緑の茎、葉っぱの感触を感じ、
わずかな一瞬に心が集まり、そして静まっていく
スマートフォンの通知も心の雑音も離れ、今ここで
花と向き合い、生きているという空気にやさしく包まれる
花は時々、「あちらから見たところ、こちらから見た姿も素敵なの」と
小さな子どもが誇らしく話すように魅力を教えてくれることがある
「この花はどこでどんな風に咲いていたのか」
そんな想像も楽しく、対話をしながら花がより生き生きと
呼吸できるように生けていく
気がつくと、何かを"こなす"ことに慣れてしまう日々の私へ
花との時間は、私の内側を整え、瑞々しさを与えてくれる
「ただある」「楽しむ」だけの私へ還してくれる
花はまたそれぞれのリズムで咲いて、枯れてゆく
枯れる姿も最後まで美しいと教えてくれる
まるで人生にも「あるがままで良い」と深く教えてくれるよう
その姿、香り、咲く様子から、言葉もくれる
例えば、スイートピーは柔らかな花びらに触れると心がほどけ、
「無理に元気にならなくていい」と、伝えてくれる
心がまとまらないとき、紫陽花の落ち着きがそっとそばにいて、
「今のあなたのままで、ちゃんと咲いている」「これで最適十分」と
語り返してくれる
ピンク、青、紫―と変化する花の色は、様々な感情に居場所を
与えてくれるようでもある
花と対話し生けることを通して、どんな感情も「存在して良いもの」
「共にあるもの」へと変化する、心が穏やかになる
忙しい暮らしの中、静かな花に耳を傾けるひと時は、
まるで深呼吸をするように、目の前の世界を少し柔らかく
優しく感じる時間にしてくれるのかもしれません
心がなごむ一日に
今日も日常に花を添えながら