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体の感覚を取り戻す/渡邉佳代

人が危機的状況に曝された時、頭が真っ白になる、体が凍りつく、呼吸が浅くなる、皮膚感覚がなくなる、自分がどこにいるのか分からなくなる…など、身体レベルでもその危機を体験し、その危機的状況に人がうまく対処できなかった時に、心身の不調が後に現れることがあります。トラウマ症状は心理的でもあると同時に生理的でもあるのです。

 ジュディス・ハーマンは、トラウマの中核は無力化とつながりの破壊だと言い、それに対してエンパワメント(有力化)とつながりの再構成が必要だと言っています。すなわち、トラウマからの回復は、人や社会、世界とつながり直すだけではなく、自分自身の感情や感覚、自分の体とのつながり直しをも指します。

 自分の体とつながり直し、身体感覚を取り戻し始めるために、以下に紹介するエクササイズも役に立つでしょう。自分の体の各部をパタパタと優しくたたくこと、マッサージシャワーでリズミカルに刺激する体の部分に注意を向けることなどです。その際、それを行いながら、「これは私の右腕、左腕…ようこそおかえり」と語りかけることもできます。

 私のお気に入りは、疲れた日の終わりに自分を抱きしめること。胸の前で両腕を交差させて自分を包み込み、二の腕をゆっくりさすります。二の腕に手のひらのあたたかさを感じながら、思い浮かぶ言葉をゆっくりとつぶやいてみてもいいでしょう。例えば、「私はここにいる」「今日も1日ありがとう」「今日も一緒にいてくれてありがとう」「よく頑張ったね」など。それをつぶやいてみて、体がどんな感じがするかを見てみましょう。

 体の感覚を取り戻すことは、シンプルに言えば、自分の体と仲良くなること、自分の体をいたわることでしょう。寒かったら1枚服を羽織る、疲れていたら早めに寝る、ゆっくりお風呂に入るなど、体がどうしたいのか、その声に耳を傾けてみましょう。

引用・参考文献 ジュディス・L・ハーマン著、中井久夫訳(1999)『心的外傷と回復<増補版>』みすず書房 ピーター・リヴァイン著、藤原千枝子訳(2008)『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』雲母書房
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