トピック
マイナス思考のクセはありませんか/窪田容子
人には、考え方や、物事のとらえ方や考え方(認知のしかた)のクセがあります。私はマイナス思考だ、悲観的だとか、あの人は被害的だ、前向きだなどということがあります。こういった物事のとらえ方や考え方のクセは、親など身近な養育者の考え方の影響を受けていたり、過去の体験の影響を受けて形成されている場合もあります。知らず知らずのうち身につけた、このクセが、あなたに怒りや不安などの感情を抱かせたり、ゆううつな気分に陥らせていることがあります。
例をあげてみましょう。☆ 怒り Bさんには、2才の子どもがいます。この頃、Bさんが何か言うと「もうー!」と不満そうに言うようになりました。ちょっとしたことですぐに「もうー!」と言われ、Bさんは「何がそんなに不満なのよ!」とイライラしていました。あるときBさんは子どもに向かって「いちいち、もうーって何なのよ!」と怒り気味で言いました。すると子どもは、にっこりと笑って「牛!」と答えました。Bさんは吹き出してしまいました。子どもは大人が「もうー」と言うのの口真似をしていただけで、不満の気持ちはみじんもなく、「牛」をイメージしていたことが分かったのです。
それ以後、子どもが「もうー!」というたび、Bさんは「牛」を思い出し、くすっと笑えるようになりました。Bさんを怒らせていたのは、「もうー!」という言葉そのものではなく、「子どもが不満を言ってくる」というとらえ方だったと言えるでしょう。状況は何も変わっていないのに、とらえ方が変わることで、Bさんの怒りは笑いに変わったのです。
子どもに必要以上に怒りすぎてしまうという親御さんは、拙著FLC21子育てナビ⑤『子どもにキレてしまいそうなとき』で、認知行動療法を用いた怒りのコントロールの方法を紹介していますのでご覧ください。子ども以外への怒りの感情にも、応用することもできます。この本を使用しながら、カウンセリングで一緒に怒りのコントロールに取り組むこともできます。☆ ゆううつ Cさんは、ある日曜日、掃除をしようと思っていました。台所と居間の掃除はできたのですが、お風呂とトイレまでは手が回りませんでした。一日の終わりに、「今日もまた、ちゃんと掃除はできなかったわ。お風呂とトイレをやり残してしまった。私って何をやっても中途半端にしかできないのよね。」と、自己嫌悪に陥ってしまい、布団の上で何回も寝返りを打ちました。
Dさんも、ある日曜日、掃除をしようと思っていました。Cさんと同じく、台所と居間の掃除は大方できたのですが、お風呂とトイレまでは手が回りませんでした。しかし、一日の終わりに「今日は随分がんばったわ。台所と、居間がこんなにすっきりしたなんて。私もやればできるのよね。お風呂とトイレは、また来週すればいいわ」と、すがすがしい気分で眠りにつきました。CさんとDさんは、同じ状況にあるのですが、Cさんは落ち込み、自己評価を下げてしまっています。Dさんは自己評価を高めすがすがしい気分になっているのです。何が違うのでしょうか。何がCさんを落ち込ませているのでしょう。お風呂とトイレの掃除ができなかったことではありません。Cさんの、とらえ方、考え方が、Cさんを落ち込ませてしまっているのです。
完璧主義の傾向がある人は、Cさんのようになりがちです。完璧から自分を見ているため、自分が出来なかったこと、うまくやれなかったことに目がいき、自己評価を下げ、落ち込んでしまうのです。たとえ9割出来たことがあったとしても、出来なかった1割に目がいってしまうのです。たとえ99%できていたとしても、出来なかった1%に目がいってしまうのです!100%出来たということは滅多にありませんから、この考え方をしていると、いつもゆううつな気分を抱えてしまうことになります。
☆不安 Eさんは、今年、自治会の役員にあたりました。任期が始まる前も、「自分でつとまるのだろうか、失敗しないだろうか」と不安でたまりません。いざ任期が始まると、常に周りの顔色を伺い、不機嫌そうな人がいると、「きっと私の仕事に不満があるのだろう」と心配になります。自分の作った資料に対して、「ここはこうした方がいいのでは」という意見があったときには、「失敗してしまった。みんな私に資料作成の能力がないと思っているに違いない」と思いこんでしまい、「また次にも失敗したらどうしよう・・・」と不安がつのり、自治会の会合に出ていくのが怖くなってしまいました。
Fさんも、今年、自治会の役員にあたりました。任期が始まる前も、「できるだけの責任を果たし、自分できないことは、誰かに助けてもらえばいい」と思っています。そう思っているので、任期が始まっても、誰かの顔色を伺うこともありませんから、不機嫌そうな人がいても気づかないかもしれません。もし気づいたとしても、「そういう性格の人なのだろう」とか、「家でケンカでもしてきたのかな」と思う程度で、自分とは関係ないことなので別に気にはとめません。自分の作った資料に対して、「ここはこうした方がいいのでは」という意見があったときには、「資料をより良くするためにアドバイスをもらえた」と受け止め、失敗したとは思いませんので、また次の会合も気軽に出ていけるでしょう。
このように同じような状況にあっても、人はいろいろな、とらえ方、考え方をします。状況ばかりではなく、その状況をあなたがどのように考え、とらえたかによって、あなたの怒りや落ち込み、不安などの不愉快な気分が引き起こされていることがよくあるのです。前向きにならなければいけないということではありません。物事を、客観的にとらえられた方が、不要に苦しまなくて済むことがしばしばあります。
もしも、あなたのとらえ方、考え方のクセが、あなたを不要に苦しめている場合は、認知(とらえ方や考え方)にアプローチする認知行動療法が役立ちます。認知行動療法では、知らず知らず身につけてしまったとらえ方、考え方のクセをカウンセラーと共に検討し、別のとらえ方、考え方ができないかどうか考えていきます。とらえ方、考え方は、長年の生活の中で身についた習慣ですので、変えることは簡単なことではありません。しかし、あなたを苦しめているとらえ方、考え方のクセを見極め、新しい考え方、とらえ方を繰り返し練習することで、あたたのクセを変えていける可能性があります。
(2014年7月)