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「進み続ける? 立ち止まる? 休む? 逃げる?」/前村よう子

学校という場で仕事をしていると、とても真面目で真っ直ぐに突き進む若者に出会う事が少なくない。「昨今の若者は・・・」と嘆いている大人たちに、「いえいえ、そんな事はありませんよ。まだまだ今の若者たちだって、捨てたものじゃないですよ」と声を大にして主張したくなる。と同時に、そんなある意味で不器用な若者たちが生き難い時代がやってきているなと感じることもある。

『Endless SHOCK』という日本でのロングラン上演記録を持つミュージカルにこんなセリフがある。「Show Must Go On、何があってもショーは続けなければならない」。ショービジネスの世界で高みを目指して走り続けていく主人公のポリシーであり、このミュージカル全体にわたって流れる精神でもある。前に向かって突き進む主人公のその姿は、ある者には憧れを、しかし、ある者には強烈な嫉妬を呼び起こし、それが故に主人公は命をも失ってしまう。

大人でも真面目で真っ直ぐな人ほど、不器用で、様々なストレスを過剰に抱え込み、身動きが取れなくなることがある。若者たちは、それに輪をかけて生真面目に正面からこれらを受け止め、ズタズタに傷つく。進み続けたいのに、進めない。進めなくなった自分が許せなくなって、身動きがもっと取れなくなる。またそんな自分を責める。立ち止まったことへの罪悪感、立ち止まってしまった自分への失望感、そんな状況を生み出した何かへの嫉妬や腹立ち、そんな諸々がますます若者たちをがんじがらめにしてしまう。

先ほどのミュージカルには続きがある。一度、死んだはずの主人公はよみがえり、主人公に嫉妬し憎みさえしていた人物と共に、再度舞台に立つ。たった1回だけの舞台に主人公をはじめ、共演者が皆、よりよいものを作り上げようと心をひとつにする。その舞台の終盤、主人公は再び天に召される。今度は、皆に暖かく見送られながら。

その最後の舞台の前に、主人公は他の共演者たちと和解し、主人公自身も自分が向き合うことを避け、ごまかし続けた自分の弱さと折り合うことになる。「疲れたら立ち止まればいい。休めばいい。そしてまた、そこから走り出せばいい」と。私はそこに「逃げたっていい」という言葉を加えたい。どんなに頑張っても、自分自身がボロボロになり続け、周りが何も見えなくなる状況なら、立ち止まり、休み、そして場合によってはその場を離れ逃げることで、自分自身を守ってもよいのだ。

それがどうしてもできない不器用で真っ直ぐな若者たちが、自分の抱えるストレスやしんどさと向き合って、折り合えるように。親や教員、周囲の大人たちの言葉は届かなくても、そんなメッセージと出会える他の人間関係に出会ってほしい。そのひとつが芸術表現だと思う。折り合える力を与えてくれる舞台や映画、ドラマ、小説の大切さを感じている。(2014年9月)

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