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機能不全家族とは?/小田裕子

家族間に役割を超えた情緒的コミュニケーションがなく、家族のそれぞれが必要としていることに応えられない家族を機能不全家族と言います。父は仕事に打ち込み、母は良き妻、良き母をやり、子どもはいい子役割を生きる。その一生懸命の果てに起きてくるのが、現代における日本的機能不全家族と言われています。あきらかな虐待やトラウマテックな出来事があったとは言い難い日本的アダルト・チルドレン(AC)は、社会的構造(通念)を背景とした、愛情の名の下における支配、真綿で首をしめられていくような生きづらさであり、大人になるほど生きづらくなっていくのが特徴です。

◆ 家族構成ではなく機能に問題があるということ ひとり親、養父母、里親、離婚して再婚した親、祖父母...誰と一緒でも必要なことが満たされるのなら、健全な家族をつくることができます。一方で父、母、子それぞれの役割を一生懸命果たした結果、生じることがある問題。家族の基本的機能とは、「生存、安全と安心、愛情と帰属感、自尊心、成長、自立して生活するためのスキルを身につけること」(アブラハム・マズロー)と言われていますが、よい悪い、正しい間違いだけではなく、困るか困らないか、苦しいか楽かと言う基準でみていくことが重要です。

◆ 家族間の束縛と閉鎖性 家族がバラバラになってしまう不安が高いほど人は人にしがみつき、束縛する傾向にあります。そのため、機能不全家族は互いを縛り合い、そこから抜けられなくなってしまいます。

また、家族の誰かが、どこかが、おかしいと認めるくらいなら、家族だけの秘密にしておいた方がましだと思っているため、家族内で秘密を保持し、相談したり、助けを求めたりしにくい傾向にあります。

◆ 共依存関係 そして、中核には、共依存の関係があります。共依存とは、愛と言う名を借りて相手を支配することです。問題のある人や関係から、苦しみながら離れられない。「私がいなければ...」と相手の問題をかばい、引き受けることに自分の存在価値を見出し、共依存関係が変化することを拒んでしまいます。共依存は愛情という形をとっているため、反発したり、拒んだりして、相手から距離をとろうとすると罪悪感が生じます。当事者だけで関係から抜け出ていくことが困難なのはそのためです。

◆ 機能不全家族のパターン 機能不全家族のパターンはいくつもありますが、以下に主なものを挙げます。暴力については、近年「虐待」「DV」というカテゴリーで認識されるようになりましたが、虐待もDVも機能不全家族に起きる問題と言えます。虐待の中でも心理的な虐待、虐待とは言いきれない過保護、過干渉、子どもへの過度な期待など、外からはわかりづらく、愛情と混同されやすいため自覚し難い問題こそが機能不全家族の中核的問題と言えるでしょう。

① 暴力のある家族 家庭の中で起こる暴力には、夫婦間の暴力(DV)、子どもへの暴力(虐待)、きょうだい間、子から親へと向かう場合があります。どんな状況や理由であれ、暴力がある家庭に安全、安心はありません。外に助けを求めること、家族の外に出ていくことが必要ですが、暴力は弱い立場にある人に向かうので隠ぺいされやすく、自ら助けを求めることは難しいものです。子どもに関わる対人援助者や地域の人たちが、暴力に気づき、家族を閉鎖的にしてしまわないことが重要です。虐待には、身体的、心理的、性的、ネグレクトがあります。心理的虐待の中には、意図的に傷つけるような言動をとる場合もありますが、意識には上らない情緒的な振る舞い、または言葉とは裏腹な雰囲気、態度により、子どもを混乱させ、不安にさせ、親にしがみつく親子密着の形態をとる場合もあります。

② 子どもに対する過保護 子どもの問題を親の問題にしてしまい、解決してしまうため、自分自身で問題を解決していく力、自立して生きていく力(自律性、主体性、判断力、責任力)を阻んでしまいます。自分でできる日常生活の多くのことをいつまでたっても親がやってしまい、それが当たり前になってしまっている場合は、関係を見直す必要があります。

③ 完全主義の親 完全主義の親は子どもに完璧であって欲しいと非現実的な期待をし、それを押し付けます。子どもは何をやっても、認められることはなく、ダメ出しをされるので、自分はダメな人間だと思い込んだり、親の期待に応えられない自分を責めたり、無力感を抱くようになります。

④ 仕事にのめり込む親 子どもが必死にサインを出しても、仕事を理由に子どもと向き合わなかったり、一緒に過ごす時間を作らなければ、子どもは置き去りにされた気分になり、自分は大事な存在ではないと思うようになります。また親自身が子どもと関われていない後ろめたさから、子どもにお金や物、快適な環境を与えて埋め合わせしようとすることがあるかもしれません。そうした愛情のすり替えは、結局のところ、子どもに空虚感や孤独感を与えつつも、誤った対人関係のパターンを学習させてしまうことになります。

⑤ 宗教や政治的狂信 信仰を持ったり、政治に関心を持つことは必要なことですが、疑問をさしはさむことなく従うことを要求する文化や風土があり、家族の中でも疑問やしんどさ、違和感を口にすることすらできない場合は情緒的、知的成長が阻まれ、家族としての機能が損なわれてしまいます。

⑥ 薬物、アルコール、摂食、ギャンブルなどへの依存症 アディクション(依存)の問題とは、何よりもそれが第一優先で、日常生活が成り立たなくなり、コミュニケーションがとれなくなることをはじめ、経済的な圧迫、精神的な孤立により、家族全体の機能を低下させます。最近では、ゲームやスマホ、たばこの問題も浮上しています。アディクションは機能不全が起きているサインと言えるでしょう。

⑦ 精神的疾患のある親 治療をし、必要なサポートを得ていれば、家族が機能不全に陥ることはありませんが、治療を拒んだり、放置し、外から適切なサポートが得られていない場合、家族全員の健康を害する場合があります。

⑧ きょうだいに障害がある子がいる場合 親は無意識のうちに、家族の中のもっとも手のかかる子どもに愛情と注意を注ぎがちです。他のきょうだいは、自分は大事ではないと感じ、感情表現や希望を抑制したり、ありのままでは愛されないと、障害のあるきょうだいの分まで親の期待を背負い、過剰に良い子を演じることがあります。

このような家庭で育った子どもはAC(アダルト・チルドレン)になりやすいと言われています。子どもの生き辛さに名前がつき、「今の生き辛さやうまくいかないことの全てがあなたのせいではない」というメッセージが機能不全家族やACという視点には込められているのです。家族の問題に覆い隠されていた、子どもの生きづらさに焦点を当て、家族の問題を自分の問題にしてしまわないための言葉です。

また、基本的な機能のすべてを家族に求め、家族内で満たそうとすることは不可能であり、完全に機能している家族というのもないものです。家族の機能と境界をゆるやかに保ちつつ、できないこと、足りないことは家族外からのサポートを得たり、家族の外で満たすことができるという視点と柔軟さが重要です。

参考文献 レイモンド・M・ジャミオロスキー著(2006)『わたしの家族はどこかへん?』大月書店 西尾和美(1999)『機能不全家族』講談社 信田さよ子(1997)『「アダルト・チルドレン」完全理解』三五館

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