カウンセリング

トラウマからの回復を支えるために役立つことについて

トラウマ・サバイバーが、回復する道筋は単純ではありません。回復に何が役立つのかは、ケースバイケースですが、一般的にトラウマから回復するために役に立つと考えられることについて、ハーヴェイの生態学的モデルの8つの次元に沿ってご紹介します。

① 記憶の再生への権限

記憶と意識の変異はトラウマ性障害の中心となるものです(APA, 1994)。サバイバーはしばしば、自分が経験したことの記憶の一部がなかったり、その場面が突然現れて、凍りついてしまったりします(van der Hart, Steele, Boon & Brown, 1993)。理解される場で語ることは、記憶の再生への権限を回復するために役に立つでしょう。ただし、記憶と向き合っていくためには、日常生活の安全や、セルフコントロールの力とのバランスに気を配る必要があります。回復すると、記憶喪失がなくなり、いきなり意識に侵入してきたものを、思い出すか思い出さないかを選択できるようになります。

② 記憶と感情の統合

記憶ははっきりとつながっているが、思い出しても何も感じない、ほとんど感じない場合があります。逆に、特定の刺激に反応して、恐怖や不安、怒りなどが押し寄せるが、これらの感情が何と結びつくのかまったくわからない場合もあります(Harvey & Herman, 1994)。トラウマ体験の記憶に目を向け語る中で、事実ばかりではなく何を感じたかを探っていくことや、現在の感情に目を向け、その感情が過去のどのような記憶と結びついているのかに気づくことは役立つでしょう。トラウマと影響について学ぶことも、気づきを促進するでしょう。回復すると、記憶と感情が結びつき、感情を伴って過去が思い出せるようになり、過去についての現在の感情も区別して理解できるようになります。

③ 感情への耐性と統制

トラウマと結びつく感情にもはや圧倒されたり脅かされたりしなくなることです。圧倒されたり、防衛的な感覚麻痺や解離なしに、感情を受け入れ、耐えられるようになるでしょう。②で述べたことが、感情への耐性と統制にもつながっていきますが、そのためにはサバイバーを支え、サバイバーの話に耳を傾ける人がいることが支えとなるでしょう。

④ 症状管理

症状を予測しうまく対処できるようになることです。自分の症状について理解し、対処法を身につけ、必要な支援を得たり、ストレス管理の技術を学ぶことが役立ちます。大切なことは、すべての症状がなくなることではなく、症状を予測し、管理できるようになることです。自分に配慮しケアができるようになるでしょう。

⑤ 自己評価(セルフケアと自己尊重)

トラウマは、自己の価値に対して破壊的な影響を及ぼします。回復すると、自己批判や自責の感情が減り、現実的に自分を評価し、肯定し、自己実現していけるようになるでしょう。自分はケアを受けるに値することに気づき、周りからのケアを受け入れ、自らも心身を大切に扱うことや、肯定的メッセージを得ることが役立つでしょう。

⑥ 自己の凝集性

幼少期の慢性化し繰り返された被害は、自己を不連続で断片化したものにしますが、回復すると、凝集性を持ち一貫した自己が体験されるでしょう。カウンセリングなど安全な場を通して、切り離していたものに向き合い、統合していく作業が役に立ちます。

⑦ 安全な愛着関係

暴力や信頼の裏切りを伴うトラウマ体験は、安全で支持的な人間関係を求め、維持していく能力を危うくします(van der Kolk, 1987)。安全な愛着関係を取り戻すには、相手が信頼に値するかどうかを見極める力や、人との境界線について学ぶこと、また適切に自己表現することを学ぶことなどが役に立ちます。

⑧ 意味づけ

意味づけは個人的なものであり、非常に個性的なプロセスです。トラウマ・サバイバーとしての自己、トラウマが起きた世界に新しい意味づけがなされます。トラウマに向き合い学ぶこと、信仰や社会活動、創造的・芸術的活動に携わることも意味づけを促進するでしょう。自分の体験を創造的に表現したり、社会活動へと変容させ、サバイバー氏名を抱くことが回復のプロセスになる人もいます。プロセスは様々ですが、回復したサバイバーは、命を肯定し、自己を肯定するような意味づけを行うでしょう。

トラウマ・サバイバーが、損傷を受けたままであれば、適切に自分を守ることができずに、更なる逆境にまきこまれやすくなります。一方、トラウマから回復した場合は、レジリエンスが高まります。将来出会うかもしれない逆境に対しても、高められたレジリエンスにより、乗り越えやすくなるでしょう。

トラウマからの回復とレジリエンス」 窪田容子(2006)『女性ライフサイクル研究16号:生き抜く力を育む-レジリエンスの視点から』の抜粋、一部改変。

参考文献

  • ハーマン・J・L(1996)『心的外傷と回復』(中井久夫訳)みすず書房
  • ハーヴェイ・M(1999)「生態学的視点からみたトラウマと回復」『女性ライフサイクル研究第9号』(APA, 1994、van der Hart, Steele, Boon & Brown, 1993、Harvey & Herman, 1994、van der Kolk, 1987は本文献より引用)
  • 村本邦子(2005)「日本語版MTRR/MTRR-Ⅰ導入のための予備的研究-トラウマの影響・回復・レジリエンスの多次元的査定」『立命館人間科学研究第10号』
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