エッセイ
いまどきの就活事情/下地久美子
<大学4回生になった息子は、今、就活の真最中である。今年は景気が上向きということで、就活生にとっては、やや有利な状況のようだ。
それでも、就活が大変というのには変わりないが、私が就職活動をした30年前とは、ずいぶん様子が違ってきている。息子の話を聞くと、「ヘぇ~、最近はそうなんや」と驚くことが多い。
まず履歴書の写真だが、就活用の写真専門店というのがあって、自然でいて、感じいい表情を撮影してくれるらしい。コンビニの前のスピード写真なら800円のところ、値段が1万円と聞いてびっくりしたが、すごい人気でなかなか予約が取れないという。
就活の第一歩は、ESの作成にはじまる。ESとはエントリ-シートの略であるが、それをメールで企業に送る。ESが通ると、企業からメールで連絡が来る。 その先に進むと、何人かが集められて、グループディスカッションがおこなわれる。私が就職活動をしていたころは、まだグループディスカッションというのは珍しくて、当時人気だったリクルートを受けたときに、初めてグループディスカッションを体験したが、周りに圧倒されて、ほとんど発言できなかったのを憶えている。もちろん、即、落とされた。この関門をクリアしたら、次は社外で、その企業の先輩と喫茶店などで話をする「リクメン」というのがある。「リクメン」とは、「リクルート面談」の略なのだそうだ(なぜか、就職活動用語は略語が多い)。表向きは、先輩にざっくばらんにいろいろ質問できる機会になるみたいだが、結構ここで選別されて、気に入られると、1時間ぐらい長話をし、その後も何度か連絡が来て会うことになるが、気に入られないと、会って10分ほどで解散となり、お茶代も割り勘にされるというから恐ろしい。
で、この就職活動の一部始終は、「みんしゅう」というサイト(「みんなの就職活動日記」の略)で逐一報告され、情報交換される。「一次面接通過しました。通過者多いそうですね」なんて書き込みが飛び交っているそうだ。多くは実際に参加せずに傍観者となって、情報だけをゲットしている。「リクメン」で先輩からお墨付きをもらうと、いよいよ面接へと進んでいく。その面接も、もちろん、志望動機や大学で頑張ったことなんかも聞かれるが、「自分を動物にたとえるとすると何ですか?」とか「面接官にあだ名をつけてください」。などという変わった質問も多いらしく、機転が利いて、笑いの取れるタイプならいいが、そうじゃないと、就活を勝ち抜くのはなかなか難しい。
ある会社での質問は、「道に大きな壁ができて、無理をすれば乗り越えられますが、壁の向こうがどのような状態になっているかはわかりません。回り道をすると20分遅れます。あなたはどうしますか?」というのがあったらしい。これの模範解答って、なんなのだろう?困難を乗り越える根性があるかどうかを見ているのか?急がば回れタイプがいいのか?それとも、新種の心理テスト? 私が以前に受けた面接で困った質問は、「自分を花にたとえてください」というものだった。だいたい花の名前もよく知らないし、薔薇や百合なんて言うと、お高く止まっていると思われるだろうし、チューリップやスイトピーというのも、「そんな可愛いと思っているのか?」と失笑されそうだし、ひまわりやあじさいというイメージでもないし。そのときは「たんぽぽ」と答え、「地味ですが、逆境に負けず、たくましいです」と言ったような・・・。この面接も落ちたけど。「就活」では、やはり、コミュニケーション能力の高い人が有利だし、明るく元気で、積極性があって、なおかつ協調性のありそうな人が選ばれやすいのだろう。反対にいうと、口下手で、暗くて覇気がなく、消極的で、協調性のない人は、脱落する。
自己アピールがうまくない人は確かにいるし、人前では緊張してしまう人もいる。私自身、就活にいい思い出もなく、人の一面を見て、ふるいにかけるやり方が、好きではない。「就活」に落ち続けて、「就活うつ」になってしまったという話もよく聞く。企業が求める人材ばかりが集まっている会社よりも、いろんな個性を持つ人が集まっている会社の方が、互いにないものを補い合えていいのではと思うのだが、どうだろう?ちなみに、フェリアンは、個性派ぞろいです(笑)。
(2014年5月)