エッセイ
魚釣り/安田裕子
母親が電話口で楽しそうにしゃべっている。姪っ子との電話。「一匹も釣れなかったの。今度またお魚釣りに行くの」。姪っ子の話すことをそのまま繰り返すかたちで会話しているので、何のことを話しているかがわかる。そういえば、この間姪が遊びに来た時、今は魚釣りに関心があること、親子で釣り堀に行くもなかなか難しかったことを、妹(姪のお母さん)が話していた。その魚釣りへの関心が、まだ続いているよう。
翌日、朝の早い時間に、釣り堀で竿をもつお父さんと、大きな網をもっている姪っ子の写真がメールで送られてきた。写真を撮っているのはお母さん。親子3人で、朝早くから魚釣りに出かけたようである。今回は釣れただろうか、興味をもった魚釣りも釣れなければおもしろくもなくなるだろうな・・・、と思いながら、夜に、魚は釣れましたか?と弟(姪っ子のお父さん)にメールをしてみた。すると、今晩の夕食は魚のムニエルだと、おいしそうな、そして嬉しそうな写真付きの返信がきた。
魚釣りには、私も、小さい頃に少し憧れた記憶がある。小学生の時、友達から、すごく早起きをして、朝も暗いうちから家族みんなで自動車で魚釣りに行くのだと聞いて、へぇ~と思ったことを思い出す。その後大学生の頃に、数人のグループで琵琶湖にルアーフィッシングをしに遊びに行ったことが一度あるぐらいで、ほぼ魚釣りにご縁がなかった。が、大学卒業後につとめた会社で、有志で作られた釣りクラブに、「入れておいたから~」という感じで、知らないうちに(笑)入部した。それまで魚釣りの経験は皆無にひとしい私だったが、釣り好きのおじさんたちが企画する、海釣りや釣り堀に、何度か連れて行ってもらった。海釣りでは、空と海の境がもはやどうなっているのかわからないほどに海が荒れて、船が揺れに揺れまくって、気分がわるくなってしまってどうしようもなく大変だったこと。釣り堀では、釣れて釣れて、しかたがないほどに釣れたこと。いずれにしても釣れた魚をみんなで分けて持ち帰らせてもらったこと、民宿では新鮮で豪快な魚料理をたらふく食べたこと、自動車に分乗するかたちで釣りに連れて行ってもらった道中の楽しかったこと。釣れるも釣れないも、魚釣りにまつわるいろんなことが、懐かしく思い出される。
この間魚釣りに興味があるようだと聞いて、今度一緒に魚釣りに行こうね~、とか言っているうちに、姪っ子はどんどん実体験を積み重ねていく。先日も、「〇〇組さんになったんだよ~。お友達ができたよ~」と、電話で報告してくれた。いろんなことに興味関心をもちながら、人と関係を結びながら、成長している姪っ子をたくましく思いつつ。大漁の時も不漁の時も、私もいろいろがんばっていこ~と、思ったりしている。
(2015年4月)