エッセイ
感謝は人の為ならず?/窪田容子
この3月のこと。中学生の息子の卒業式から帰ってきたら、ポストに手紙が届いていた。中学校で子どもが書き、卒業式の日に届くように先生たちが投函してくれた親への手紙だった。親への感謝の気持ちとともに、「おかげで、なりたい自分になっています。やりたいようにやれています。」と書いてあり、嬉しかった。
私からは返信として、生まれてきてくれたこと、すくすく育ってくれたことへの感謝と、なりたい自分になり、やりたいようにやれていることの喜びを手紙に書いて息子に渡した。
つい先日のこと。夫のあるお祝いの会で、妻からのサプライズの手紙を読みたいので、手紙を書いてほしいと夫の友人から頼まれた。笑える系でも泣ける系でもいいからと言ってもらったが、私にはどちらも書くセンスがない。悩んだ末に、夫に感謝する手紙を書いてみることにした。考えてみれば、日々の暮らしの中で、日常的にありがとうとは言うけれど、まとまって感謝の気持ちを伝えたことはない。これはありがたい機会かもしれないと思い、仕事のことや家庭のことなどについて感謝の気持ちを書き綴って友人に渡した。
ポジティブ心理学者のセリグマン他の研究によると、感謝の手紙を書いて、突然その人の元に訪問し、手紙を読み上げると、ほとんどすべての人の幸福度が上がったのだそうだ。感謝された側はもちろんだが、感謝した側の幸福度も上がる。
また、日常生活で感謝した回数と幸福度の関連を調べた実験がある。感謝できる出来事がいくつあったかを数えるグループと、不満を感じる出来事がいくつあったか数えるグループに分け、10週間後の幸福度を比較したところ、感謝を数えるグループの方に幸福度が25%高いという結果だったそうだ。不満を意識するより、感謝を意識する方が幸福度は高くなる。他には、その日に感謝したことを日記に書き残すことも、何を書きとめようかと思うことで、感謝することを探す習慣が身につき、気分を上げる効果がある。
感謝は、人に対してだけでなくてもいいし、また、もっとささやかなことでもいいのではないだろうか。たとえば、お出かけする日に晴れたこと、ごはんが美味しいと思えること、今日一日を無事に過ごせたことなどへの感謝の気持ちを持つことも、気分を上げる効果があるのではないか。私自身も、感謝の手紙を書いてから、幸せな気持ちが高まった。情けは人の為ならず(情けは、相手のためになるだけでなく、めぐりめぐって自分に返ってくる)というけれど、感謝も人の為ならず。
そして、まだきちんと感謝を伝えていない人のことが思い浮かぶ。感謝の気持ち伝えたい時にはその人はいないということもあるだろうから、伝えられるうちに、機会を作って伝えていきたいと思う。
参考文献 『幸せはあなたのまわりにある』須賀英道著 金剛出版 (2016年5月)