エッセイ

ランドセル/安田裕子

来春、小学校一年生になる姪。数ヶ月前から、おばあちゃんおじいちゃんからの話題は、もっぱらランドセルだった。ちょっと早いんじゃないの?と思っていたが、日本社会ではこのところ、ランドセル商戦はホットなよう。以前、お盆が一番の売れ時だと、何かのテレビ番組でやっていた。帰省時に、祖父母が孫のために購入する、ということらしい。うちではそれよりも早いこのタイミング(笑)。今は私たちの時とは違って、ランドセルの色は、女の子は赤、男の子は黒、では必ずしもない。春を思わせる素敵なカラーのランドセル。なんだか私がワクワク。姪がランドセルを背負って小学校に通う姿を想像しては、なおさらワクワク。

小学校の入学式の日、桜の木の下で、ランドセルをしょって写真を撮った光景が、ふっと思い出される。私はこの日、たしか熱を出した。微熱だったと思うが、少しばかりポーっとしていたような、そんな記憶。緊張していたのかな、興奮していたのかな。私の小学校時代のそうしたはじまりが、ふんわりと思い出される。

環境移行ということば。人生にはいくつもの節目となる出来事がある。入園、卒園、入学、卒業、就職、結婚、退職など、多くの人が経験する出来事もあれば、災害や事故など、予測しようもなく突然に降りかかる災難や困難などもある。こうした人生におけるさまざまな出来事や移動によって環境が変わることを、環境移行という。

環境移行は、不安や混乱やストレスをもたらす状況にもなりうるという。一見喜ばしいような出来事でも、思いがけず緊張度の高い状況に陥ることが、明らかにされている。小学校入学という、子どもにとっての環境移行体験。生活環境や友達関係の変化、学習環境という新たな場への参入などはもとより、ステップをひとつあがった年長者としてのふるまいを期待されるということ。こうしたことが、子どもにとって、それまでとは異なる大きなこととして経験されるのかもしれない。入学した後も、学年があがる、クラス替えがある、など、大なり小なり環境移行は訪れる。もちろん、こうしたいろんな変化を伴う経験は、子どもにとって、心身の成長の大きな糧にもなる。

6年間をともにするランドセル。時間割を確認し、教科書や筆箱、連絡帳、そして縦笛などを入れて、お天気の日も、雨が降る日も、小学校に通う、そんな学童期の一日一日。いや、5,6年生にもなると、多感な思春期にも少しずつ入っていくだろう。そんな、おおいに遊び、おおいに学ぶ6年もの間には、たくさん笑うこともあれば、いっぱい涙を流すことも、きっとある。ランドセルを眺めながら、小学校という場で、あふれんばかりの豊かな経験をしてほしいなと、ちょっと気が早いながらも(笑)。そしてまた同時に、私もきっとそんなふうに温かい思いをたくさん注いでもらいながら、生きてきたんだろうな、とも。姪のこれからを楽しみに思うとともに、私もまだまだ成長してきたいなと、思わせてもらえることの有り難さ。まっさらのランドセルから、人の生の輝きと循環に、想いを馳せる。

(2016年7月)

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