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楽しく子育て/小田裕子

 「子どもは可愛く、子育ては楽しい!!」誰もがそう思いたい。しかし、育児ストレス、育児不安‥など現代社会での子育てはネガティブな面も多い。子育てが始まると同時にぶつかる難関に、生活スタイルの変化がある。身軽に思うように動いていた自分中心の生活から、子ども中心の生活に振り回されることへの戸惑い。また、子育て中心の生活に意味や価値を見出せず、日常生活や自分の存在が無意味に思えてくるような行き詰まり…。このように今までの社会生活と子育ての間にしんどさが生じるのはなぜだろうか?

 子育てには沢山の要因が盛り込まれ、多くの力を必要とする。中でも社会の在りようは大きな影響を及ぼす。現代社会が生み出す「安全や安心よりも利益追求」「自分の内的欲求に基づいて動くより、外側からの要請や損得勘定で動く癖」「焦りと多忙化による自分の心と頭で感じて、考えることの麻痺・停止」「他者比較や他者評価でしか自分を見出せなくなるような評価のまなざし」「共有し共同し育ち合うより、支配か被支配の一方向でしかないコミュニケーション」「マニュアルやスケジュール通り動かそうとする発想」‥これらは否応なしに、私たちの生活スタイルや価値観として浸透している。当然ながら、効率的に等質で便利に使えるモノ(人財)を大量生産する原理と個性をもった命を、人を育む原理は本質的に異なるはずである。自分がどんな原理の下でどのような価値観をもって生きていくのか。子育てを通して命を基準とした生活に引き戻される時こそ、改めて向き合う機会かもしれない。

こうした社会的背景を見直すことなく、子育てのしんどさや、ストレスは解消できないように思う。子育ての行き詰まりを個人の問題にしてしまう風潮は、親の自己嫌悪や自信喪失、子どもを可愛く思えない悪循環に封じ込めてしまうし、「悪いのは自分だと」子どもの自己肯定感にも大きなダメージを及ぼす。子育てを楽しむためには、まずは私たちの意識をつくっている社会の在りようと子育ての矛盾に気づき、自分を責めないこと。そして、今までの生活スタイル、価値観や考え方を見直し、命を育む生活や価値観の軸を自分の中にしっかりともつことではないだろうか。

 一方、個人的な要因として、変化に伴う痛みや悲しみに気づいておくことも必要である。産前産後の心身の変化は本人にしかわかりにくく、憂鬱やしんどさをもたらす。また、今までの活動や評価、自己実現の場を失う悲しみ、幼い頃からの傷つき等が癒されなければ、子どもに向かうはずのエネルギーは、自らを慰めるために費やされてしまう。痛みや悲しみが放置されたままでは子どもを可愛く思うことは難しい。自分の痛みや悲しみに気づき、サポートを求めて、ケアし、されることで、初めて子どもへと愛情が流れていくものではないだろうか。また、子育て中は外出がままならず、孤立しがちである。専門家から隣人まで使える社会資源は有効に活用し、子どもを介することで新たにつながる人たちとの出会いを大事にしたいものだ。おっぱいマッサージなんかは、授乳期にしか経験出来ない出会いだし、子育てカウンセリングを受けてみると、目の前が開けてきたという声も聞く。最近は子連れでフレンチコースを食べられる店なんかもある。今だから繋がれる人や場所と繋がって、心の休息も欠かさずに、楽しく子育てしていきたいし、そのための互いのサポートも惜しみなくやっていきたいと思う。

(2014年6月)
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