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豊かな子育て支援とは/津村 薫

フェリアンでは、さまざまなテーマで講演・研修のご依頼をお受けしている。特に福祉・医療・教育等、「支援者を支援すること」を大切にしてきた。私にとって「子育て支援」は、とりわけ大切に取り組んできたテーマだ。

平成9年、社会福祉各法の先陣を切って、50年ぶりに児童福祉法は改正された。大きく様変わりしたのは官主導の「措置」制度から、利用者主体の福祉へという価値観の転換であるといわれる。

「子育てはそもそも親がするもの。なぜ支援せねばならないのか?」という風潮は、私がこの仕事を始めた90年代初め頃からよく耳にしてきた言葉だった。さすがに今それを公言する人は少なくなったにせよ、子育て支援の世界では今なお、それを感じることがある。「本来なら親がすべきことを私たちがしている」、こう考える人は、今も少なくないからだ。

「こちらが支援してしまうことで、きちんと子どもを育てない親が、ますますサボる口実を与えるような気がして、子育て支援をすることが良いことなのか悪いことなのかと迷う」「自分たちが子どもを抱いてやることは簡単。でもそれをしなきゃならないのは親じゃないでしょうか?」。そんな言葉を子育て支援の現場から、私は何度も実際に聞いてきた。

「子どもには、親以外の大人から愛され、可愛がられる体験が重要。愛情に乏しい背景がある家庭であれば、なおさらのこと、あなたが大切だというメッセージを伝えることはもちろん、信じられる大人がこの世の中にいることを知らせたい。親だけに子育ての責任を負わせるのではなく、地域や人々が繋がり、積極的に肯定的な関心を親子に寄せ、親子を孤立させぬ支援こそが、子どもたちの力になるもの」、私はそう話してきた。

内閣府男女共同参画局長を務めた坂東眞理子氏(昭和女子大学大学院教授)も著書、『男女共同参画社会へ』の中で過去、中央児童審議会委員に任命された折、保育の専門家が働く母親に批判的であることに驚いた記憶があると述べている。

私自身、意識が高く尊敬できる子育て支援の専門家(保育や幼児教育)を何名も知っているが、確かにその先生方も「温かい支援の姿勢」を保育現場にどう根づかせるべきかという課題を持ち、日々、奮闘されているように見える。

大沢真理氏(東京大学社会科学研究所教授)は著書『男女共同参画社会をつくる』の中で、こう延べている。

「子どもの健全な発達という観点から、乳幼児の母親は育児に専念すべきだという意見もあるかもしれない。しかし、母親が一人で育児に専念するというのは、日本人にとっては非伝統的である。

つい1960年頃まで、日本人の大多数は、農村で大家族の農家に生まれ育っていた。母親にとっては農業が最優先の役割で、子育ては家族の年寄りや若いオジ・オバ、きょうだい、近所の年寄り・子どもたち、休業中のおとななど、続柄や年齢の多様な人々が分担していた。それに、昔の農家の男性たちは、現代のサラリーマンよりもずっと長時間、農業労働を行ったうえで、一日に1時間以上の家事労働もこなしていたのだ。

親はもちろん、家族外の保育サービス、地域のネットワークが支えあう育児は、日本伝統の子育てを21世紀によみがえらせるものとすらいえよう」

私たちが「当たり前」だと思っているこの家族システムは、たいして歴史があるものなどではないのだ。

児童福祉法第一条で、児童福祉の理念が謡われている。

「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない」。

子どもたちが豊かに育まれるために、周囲の大人みんなに責任がある。保育園が子育てをカバーできるのは僅か数時間のことだ。それが親の育児力を奪うものでもなんでもなく、むしろ社会的に必要な支援ではないだろうか。もちろん、夜間を含む長時間に渡る保育に関わる機関もあるが、そこに預けて働くことが必要な親子を助けることも必要な支援だ。

私が受ける講師依頼のうち半分近くが保育士・幼稚園教諭・ファミリー・サポート・センター、子育て支援センターなど子育て支援者の研修だ。近年、最も多い依頼は「支援者のストレス」と「保護者支援」である。

もう10年以上前のことだ。社会の変化と自分たちに課せられた役割に戸惑う支援者たちを見て、何かできないだろうかと考えた。

児童福祉法改正、そして時代の要請と共に、子育て支援は変わることが期待されている。子育て支援者たちが変化に対応できるスキルアップとメンテナンスができるようにと考えて企画したのが、毎年夏に、仲間たちと行っている、現役子育て支援者たちのための2日間の集中講座、「キッズ・サポーター・スキルアップ講座」だ。今年で10年を迎えようとしている。このプログラムはいくつもの都道府県で、出張実施を続けているものでもある。

本講座受講者の過去のご感想の一部を紹介したい。

「自らも少しずつ、援助者として変化していきたい」 「援助者の難しさをあらためて感じだが、反対に、いろんな親子に接する良い仕事だとも感じた」 「2日間みっちりと学んだ。心地よい刺激を受け、前向きに活かしたい」 「いま社会で何が求められているのかをキャッチされた講座だから私なりに学び、深められた」 「自分自身がお母さんたちの魅力的なモデルになれるよう、自分を磨こうと思う」

キッズ・サポーター・スキルアップ講座は、良い支援をしようと懸命に学び、それを現場に活かそうとする人たちのパワーが感じられ、「こんなに頑張っている人たちがいる」とお互いにエンパワメントされる場だと思う。

これからも、より良い子育て支援のため、子育て支援者を支援する活動に微力ながら関わり続けたい。 (2014年8月)

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